漢方、漢方薬、生薬という言葉は、普段何気なく使っている人が多いです。
特に、漢方薬のことを漢方と呼ぶことも多いですが、これらの言葉は意味は同じではありません。
漢方は、中国から伝わって広まった医学全般のことを指します。
薬以外にも理論や考え方、鍼灸、料理など幅広い範囲のことを言います。
漢方薬とは、漢方の考え方に基づいて生薬を配合して作る薬のことです。
このように、混同しがちなこれらの言葉は、本来まったく意味が異なる言葉です。
生薬を使って作られている漢方薬
漢方薬は、いくつかの生薬を組み合わせて作られています。
甘草湯のように1つだけの生薬で作られた漢方薬もありますが、多くの漢方薬は数種類~20種類以上の生薬を組み合わせて作らられています。
生薬はそれぞれ味や性質が異なっており、さらに1つの生薬には複数の成分が含まれています。
そのため、複数の生薬を組み合わせることによって、漢方薬特有の複合的な効果が期待できるようになります。
どの生薬を組み合わせるとより効果が現れ、副作用が抑えられるのかは、漢方の歴史の中で試行錯誤され、現在の組み合わせができあがっています。
漢方薬の構造
1つの漢方薬に使われている複数の生薬には、それぞれ異なる役割があります。
君薬
主になる作用を発揮する生薬です。
臣薬
君薬の作用を補う生薬で、君薬の次に重要な作用を持ちます。
佐薬
君薬を助け、漢方薬全体の作用を調節する生薬です。
使薬
各生薬の調和をはかる生薬で、君臣と佐薬の補助的な役割を持ちます。
麻黄湯(まおうとう)の構造
漢方薬の構造の例として、悪寒や発熱、せき、関節痛など風邪の症状に有効な麻黄湯の構造について紹介します。
君臣佐使の中でメインとなるのは君薬ですが、使われる量が一番多いと決まっているわけではなく、漢方薬によっては他の生薬と同量の場合や、他の生薬に比べて少ない分量の場合もあります。
君薬…麻黄(まおう)5.0g
体を温めて、発汗させる効果、せきを止める効果があります。
臣薬…桂皮(けいひ)4.0g
麻黄の作用を増強させる効果があります。
佐薬…杏仁(きょうにん)5.0g
麻黄の発散性を抑える効果、せきを止める効果があります。
使薬…甘草(かんぞう)1.5g
使われているすべての薬を調和させる効果があります。
生薬はおなじでも違う漢方薬になる
漢方薬は、使われる生薬の種類が同じでも、使われる分量が少し異なるだけで違う漢方薬になることがあります。
例えば、桂枝湯は桂皮を君薬として風邪薬になりますが、桂枝加勺薬湯は芍薬を君薬として腹痛の症状に用います。
この場合、桂枝加勺薬湯に含まれる芍薬の量は桂枝湯よりも1.5倍多くなり、それによって主体になる作用も異なります。
桂枝加勺薬湯と桂枝湯は、君薬と臣薬になる桂皮と芍薬が入れ替わりますが、それ以外の佐薬(大棗、甘草)、使薬(生姜)に関しては、分量は若干異なるものの、役割は同じままです。
このように漢方薬は生薬の配合によって効果が異なるため、生薬の量を変えたり種類を増やしたりすることで、患者さんの症状に合わせた煎じ薬を作ることができるため、より個人の症状に合わせた薬を作ることができるようになります。