七物降下湯

七物降下湯は、高血圧やそれに伴う様々な症状を改善する漢方薬です。具体的にはのぼせ、肩こり、耳鳴り、めまいなどがあげられます。年齢とともに身体が弱くなり、血圧が上がってきたようだという場合に適応されます。やや体力がなく、最低血圧が高い傾向の人に最適です。

実は比較的新しい処方で、昭和の時代に大塚敬節が自身の高血圧治療のために考案したと言われています。釣藤鈎の脳血管の狭窄を改善する作用に着目し、これによって血流障害を改善しつつ、血液を滋養することで高血圧を引き起こしている原因自体を改善しようとする処方です。

七物降下湯の生薬について

・当帰(トウキ)…セリ科のトウキという植物の根です。血を養い血行をよくする働きがあり、冷えや月経痛などに有効です。駆瘀血薬、活血薬として、鎮痛や強壮に役立っています。

・川芎(センキュウ)…セリ科のセンキュウという植物の根が原料です。活血行気の生薬で、血流を改善し、血が滞ることによって起こる頭痛や疼痛を和らげます。また香りによって気うつを晴らします。

・地黄(ジオウ)…ゴマノハグサ科ジオウ属植物の根茎です。補血・強壮の薬として名高く、貧血や虚弱体質の改善に使われます。

・芍薬(シャクヤク)…ボタン科シャクヤクの根です。鎮痛、鎮痙作用があり、筋肉の緊張を和らげて痛みを取ります。

・黄耆(オウギ)…マメ科キバナオウギまたはその他同属植物の根を乾燥したものです。止汗、利尿、強壮の作用があり、むくみや麻痺、疼痛、排尿困難などに使用します。

・黄柏(オウバク)…寒性の生薬で、解熱、消炎作用があり、炎症性の下痢などに効果を表します。また腎に働き利尿作用をもたらします。

・釣藤鈎(チョウトウコウ)…血圧下降作用、鎮静作用のある生薬で、めまいやふらつき、四肢の痺れ、熱が出た時の痙攣などに用います。

七物降下湯の効能

七物降下湯は血液に栄養を与えて増やす「四物湯」をベースとした方剤であり、造血機能を担う「肝」を養い血を増やして、熱が過剰になっているのを冷ますことで諸症状を落ち着ける方剤です。

肝の機能は、気力の貯蔵庫である「腎」とともに老齢になるにつれ低下していくとされています。老化によってあちこち調子が悪くなるのもこのためです。貧血も老化現象の1つです。そしてこの貧血状態が高血圧を引き起こす場合があるのです。

肝が弱ると血を作り出す働きが弱くなり、そのために全体的に血が少なくなったり質が悪くなったりします。血の栄養が貧しくなると、身体に十分な栄養が行き渡りません。そのために心臓がより頑張って血をめぐらせようとして、高血圧を引き起こします。

また、「血」も水分であり、身体の中を潤している要素です。血が少なくなることは潤いがなくなることでもあり、それがのぼせや精神的なイライラを起こします。七物降下湯は血液を増やして陰(潤い)を養うため、熱がもたらす不快症状に効果があります。

ちなみに黄耆には毛細血管拡張作用、地黄は気を増やす作用、黄柏には地黄による胃腸障害を抑制する作用があります。

七物降下湯の使用法

煎じ薬の成分を濃縮乾燥させた「エキス剤」が主流です。1日量を2、3回に分け、食前または食間に服用します。

副作用などはあるか

地黄による胃腸障害が見られる場合があります。気になる場合は医師に相談した上で服用を食後にするなどで対応します。

また本方は体力虚弱なために陰虚(潤い不足)に陥り、相対的に熱が強まっている状態に用いる処方です。体力が充実し、エネルギーが暴走しているような高血圧には利用しないほうがいいでしょう。証(体質)をきちんと医師に見立ててもらうのが安心です。

虚弱な人の対風邪漢方薬「香蘇散」憂鬱な気持ちも同時にケア

香蘇散は、胃腸の弱い人の風邪の初期に用いられる漢方薬です。寒気や頭痛、めまい、抑うつ状態を改善します。

風邪の初期の漢方といえば「葛根湯」が有名ですが、漢方においては服用する人の「証(体質)」が重要で、必ずしも葛根湯が適応するわけではありません。実は様々な体質に合わせて「麻黄湯」「小青竜湯」「桂枝湯」など多様な風邪薬が存在します。

香蘇散は、胃腸が弱く体力がなくて、桂枝湯の処方と迷うけれども特に「気うつ(気分が晴れない)」の症状がある方に処方します。とても優しい成分なので、桂枝湯でも胃もたれするほど胃腸が弱い人や、高齢者、妊婦の方にも使用されています。

香蘇散の生薬について

・香附子(コウブシ)…カツヤリグサ科ハスナゲという植物の根茎です。芳香性があり健胃作用を持つほか、血のめぐりを改善することで、鎮痛作用、月経調節作用、冷えの改善作用を持ちます。

・蘇葉(ソヨウ)…刺身のツマとしても活躍しているおなじみの薬味、シソの葉です。漢方としては発汗、解熱、鎮咳、鎮痛、鎮静、解毒作用を持ち、魚介中毒も防ぎます。

・陳皮(チンピ)…ウンシュウミカンの成熟した果実の果皮を、1年干したものです。芳香性を持つことから気をめぐらす作用に優れ、健胃作用、制吐作用を持ちます。また、身体を温めます。

・甘草(カンゾウ)…マメ科カンゾウの根を乾燥したもので、滋養の生薬として多くの漢方処方に配合されています。鎮痙、鎮咳、抗炎症、潰瘍修復、抗アレルギー作用を持ち、消化器官を補います。

・生姜(ショウキョウ)…これも薬味としておなじみの生姜です。芳香性を持ち解表発散作用、健胃作用、解毒作用があります。また、一般によく知られているとおり身体を温めます。

香蘇散の効能

メインの生薬である香附子と蘇葉の「解表作用」と「行気和血作用」によって、初期の風邪を散らします。解表とは身体の中の“邪”を汗として体外に発散すること、行気和血とは気の流れを促進し、血行をよくするということです。

どちらも身体を温め発散する働きがあり、穏やかに発汗を促して風邪と戦う身体をサポートします。

また、陳皮を含めた各生薬の持つ芳香が停滞した気をめぐらせ、鬱屈した気持ちを晴ればれとさせてくれるため、精神的な面にも効果が期待できるところが特徴です。気がめぐり、気持ちがしっかりすればそれだけ病気に対する抵抗力も戻ってきます。

甘草、生姜の効果で胃にも優しく、胃が弱くて精神的にも繊細という人にピッタリの処方だと分かりますね。

また風邪とは関係しませんが、蘇葉には魚介の中毒に対する抵抗力があり、香蘇散が食物由来の蕁麻疹に著効することがあります。

香蘇散の使用法

「散」は砕くという意味。かつては原料の生薬を薬研で砕き、そのまま服用していました。しかし、現在では濃縮乾燥させた「エキス剤」が主流です。医師に処方された1日量を3回に分けて食前または食間、つまり基本的には空腹時に服用します。

副作用などはあるか

とても穏やかに効く漢方薬で、高齢者や妊婦の方にも服用されています。指示に従って服用する限り重篤な副作用の心配はありません。ただし、甘草に含まれる「グリチルリチン酸」は過剰摂取によって「偽アルドステロン症」を起こすことがあります。長期にわたって服用する場合はむくみや高血圧の症状が出ないかよく観察し、心配があれば医師に相談してください。