中国からの伝来が漢方の歴史のはじまり

漢方は紀元前に中国で生まれた中医学が日本に伝来してきたものです。日本には5~6世紀ごろに伝わったとされていますので、すでに日本でも漢方は1500年以上の歴史をもっています。
中国の紀元前の古代哲学は実践を経て医学として『黄帝内経(こうていだいけい)』にまとめられました。黄帝内経は、いまも使われている陰陽五行学説、臓象学説、経絡学説、病因病機学説、運気学説、養生論が記載されている現存する最古の中国の医学書です。
薬物については、365種類の薬物をまとめた『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』という中国最古の薬物専門書があります。この中には、365種類の薬物(植物252種類、動物67種類、鉱物46種類)が含まれていて、上品(120種類)、中品(120種類)、下品(125種類)に分けられています。いまでも生薬として使われている薬物が掲載されているといってもよいでしょう。
薬物の使い方については、『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』にまとめられました。(現在は、『傷寒論(しょうかんろん)』と『金匱要略(きんきようりゃく)』に分かれています。)
この三大古典が伝わってきたのが日本の漢方の歴史のはじまりです。

日本と中国で別々に発展した漢方の歴史

日本では、中国の三大古典やその他のさまざまな書籍から日本にあった内容を選んで『医心方(いしんほう)』という日本最古の医学書が984年にまとめられました。その後、日本の漢方には、3つの流派(古方派、後世方派、折衷派)ができ、それぞれの解釈を加えて、発展してきました。
中国では、三大古典をもとにさまざまな発展を経て、1600年代には温病学という考え方もできてきました。しかしながら、この時期は日本では江戸時代で鎖国政策をとっていたため、温病学(うんびょうがく)は伝わらず、現在、温病を治す漢方薬の処方数は日本では少ないといわれています。

発展の歴史の中で違いが出てきた日本と中国の漢方

発展の歴史の中で、日本と中国の漢方では、違いが出てきました。診察では、いずれも、望診、切診、聞診、問診という四診により患者さんからの情報を得ますが、日本では切診のうち腹診が重視されるようになりました。中国では、腹診ではなく舌診や脈診が診察方法としてよく使われています。
また、日本では、傷寒論などに掲載された症状と処方の組み合わせをもとに、症状と漢方薬を直接結びつける「方証相対(ほうしょうそうたい)」が行われていますが、中国では患者さんの証を見極めたのち治療方法を決める「弁証論治(べんしょうろんち)」というオーダーメイドの治療法が行われます。ですから、中国では、生薬の種類や量を加減する方法がとられますが、日本では患者さんの状態がある処方の証にあっていれば使うという方法がとられ、保険診療でもエキス製剤として決められた分量の処方となっている漢方薬を使用して治療が行われているのです。なお、日本でも、医師が生薬の分量を記載して処方する場合には、生薬の種類や量の加減が行われています。
たとえば、葛根湯(かっこんとう)を処方する場合で比較してみましょう。傷寒論では「くびや背中がこわばり、汗がなく、風にあたるのを嫌がる」状態のときに葛根湯がこれにあうと記載されています。日本では、このような状態を「葛根湯証」として、葛根湯を処方します。中国では、患者さんを診察し、「風寒表実兼経輸不利証」という証と診断したなら、「辛温解表、解肌通経」という治療のために、葛根湯を処方し、患者さんの状態によっては、生薬の種類や量を加減するのです。
このような違いがあるため、漢方による治療を受ける場合は、日本の漢方で治療しているのか、中医学で治療しているのかも気になるところですね。

漢方治療の利点とは何か

漢方薬は薬局で買ったり、医師から処方したりして飲むことができますが、現在は保険診療で医師から処方してもらうことができます。少しだけでも漢方薬を使う医師を含めると、漢方薬のエキス製剤を処方する医師は90%以上にのぼります。このように漢方薬を使う医師は増えてきていますが、治療を受ける側としては、従来からの西洋薬による治療と漢方薬による治療とでは、考え方が異なることを知っておきましょう。

漢方薬と西洋薬の違い

西洋薬は病気がおこっている原因をつきとめ、その原因に対応するような薬を探す方法で、薬がつくられてきています。高血圧にきく薬を探す場合は、血圧が上がっているのは血管が収縮しているからだと考え、血管をゆるめる物質をいろいろな物質の中から探しました。たとえば、カルシウムが血管を収縮させることがわかっていましたので、カルシウムの作用に拮抗するような物質を探しました。さらにその物質に本当に血圧を下げる効果があるのかを動物実験で確認し、物質にいろいろなものをつけたり変更したりして、もっとよく血圧を下げる物質をつくりあげてきました。このようにしてつくられた薬は、血圧が高いという状態にぴったりあった単一の成分の薬としてできあがっているわけです。
一方、漢方薬の場合は、2000年以上の歴史のなかで、いろいろな植物や動物、鉱物の中から、人の症状をよくするもの(生薬)を見つけて、組み合わせを試行錯誤してきました。そのため、漢方薬に含まれる生薬は、単一の物質ではありません。また、生薬を組み合わせた漢方薬は、単一の物質ではない生薬の組み合わせですので、中に入っているものは、複雑な内容になっています。
また漢方治療では「血圧が高い」という状態をなおすことを目標にはしない点が西洋薬による治療とは異なります。あるべき状態から患者さんが外れている状態なのを、漢方薬で元のあるべき状態に近づけようとするのが漢方治療なのです。
あるべき状態というのは、陰陽、虚実、寒熱、表裏、気血水などの観点で考えます。陰が少なければ陰を補う、気や血が少ない(虚)ならそれを補う、寒(冷え)が多いならあたためる方向の薬を使う、表に病気が入ってきたならそれを払う薬を使うなど、上記の観点で検討し、使う漢方薬を決めていくのです。
高血圧の患者さんに使う漢方薬としては、八味地黄丸(はちみじおうがん)、大柴胡湯(だいさいことう)、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、真武湯(しんぶとう)、釣藤散(ちょうとうさん)、大承気湯(だいじょうきとう)など、さまざまなものが知られています。でもそれぞれの漢方薬は、単に血圧を下げるという作用で使われるのではなくて、陰陽、虚実、寒熱、表裏、気血水などの観点で、その患者さんの状態にあった漢方薬を選んでいくのです。

漢方治療の利点とは

漢方治療では、患者さんの状態にあわせて漢方薬を選んでいくため、西洋薬が治すのが苦手な症状に対しても効果が期待できるのが利点といってよいでしょう。いわゆる不定愁訴とよばれるような症状に対しても、漢方薬の効果があることが知られています。頭が重い、体がだるい、顔がほてる、汗をかきやすい、寝汗をかくなどといった症状には、陰陽、虚実、寒熱、表裏、気血水などの観点で考えて最適の漢方薬を見つけていくことができるのです。ただし、患者さん自らが自分にあう漢方薬を見つけ出すのは難しいため、漢方専門の医師や薬剤師などからアドバイスを得るとよいでし