虚弱な人の不安や不眠を和らげる漢方薬「柴胡桂枝乾姜湯」

名前を一見する限りでは、風邪の漢方薬「柴胡桂枝湯」に体を温める「乾姜」が加わっただけ…のようにも見えますが、そう単純なものではないので注意が必要です。

柴胡桂枝乾姜湯は、精神をリラックスさせ心を穏やかにする漢方薬です。疲れやすく、顔色が悪く、食欲不振がわかない、眠りが浅い、朝方に気分が憂鬱になる、といった症状を改善します。

「小柴胡湯」の加減方の1つと言えますが、半夏が抜かれており吐き気や嘔吐には適応しません。その点は「柴胡桂枝湯」と大きく異なっています。また人参と大棗も含まれていないため、胃腸に気を補う作用も軽めです。

その代わりに温める作用、心を穏やかにする作用に優れた生薬を配合しており、おおよそ自律神経に関わる疾患を得意とします。

柴胡桂枝乾姜湯の生薬について

・柴胡(サイコ)…亜急性期の解熱、解毒、鎮痛、鎮静に使われる代表的な生薬です。寒性で、熱を冷ます性質を持ちます。

・黄芩(オウゴン)…肺と大腸の熱を冷まし消炎・解熱に働く生薬です。

・桂皮(ケイヒ)…身体を温めるハーブ、シナモンとして知られ、気のめぐりをよくして発汗、発散、健胃の作用を持ち、冷えからくる痛みを鎮めます。

・乾姜(カンキョウ)…生姜の根茎を湯通した後、皮を取ってさらに煮沸し、乾燥させています。生姜よりさらに温める力があり、冷えによる消化不良や下痢などに用いられています。

・天花粉(テンカフン)…シナカラスウリなどの塊根を外皮を除き乾燥したもので、栝楼根ともいいます。肺を潤す作用が強く去痰、止渇、排膿作用があります。

・牡蛎(ボレイ)…イボタガキの殻で、主成分は炭酸カルシウムです。鎮静・安神の薬としてしばしば竜骨と組んで用いられます。

・甘草(カンゾウ)…マメ科カンゾウの根を乾燥させたものです。鎮痛、鎮痙作用があり、炎症を和らげ緊張を緩和させます。

柴胡桂枝乾姜湯の効能

「消化器を温めて力をつける」、「情緒を司る器官の熱を去って落ち着ける」ことにより、虚弱な人の精神不安や、それに伴う体調不良を改善します。

まず、寒さに冒されて胃腸が冷えたことにより生命エネルギーである「気」の生産が鈍って疲れやすくなった状態を温め改善します。胃腸が弱ることで食欲がなくなり、疲労や倦怠感を感じるようになったり、病気への抵抗力が落ちたりしてしまうのです。

桂皮や甘草、乾姜によって身体を温めて胃腸の働きをバックアップし、栄養を与えて気の生産を助けます。天花粉は上半身を潤して余計な熱を取り、口渇を治します。

柴胡、黄芩の組み合わせは慢性化した病邪を中和する生薬で、情緒に関連のある「肝」を冷やしてイライラや不眠を和らげます。牡蠣の主成分はカルシウムで、これもまた心の不安を落ち着かせてくれる生薬です。

神経症状があるものの、桂枝加竜骨牡蠣湯が使用できない細身で弱々しい人に用いられるイメージです。

柴胡桂枝乾姜湯の使用法

「湯」は煎じ薬の意味で、元来生薬を煮出したものを服用していましたが、現在では濃縮乾燥させた「エキス剤」が主流です。1日量を2、3回に分け、食前または食間に服用します。

副作用などはあるか

甘草を含む処方なので、生薬特有の副作用である「偽アルドステロン症」に注意します。むくみや高血圧などがおこる場合があります。

インターフェロンとの併用は「禁忌」とはされていませんが、ベースは小柴胡湯であるため、経過には気をつけて用います。

その他、服用して発疹や胃の不快感、下痢などが現れた場合は早めに医師に相談してください。

胸の痛みを伴う気管支炎に用いる漢方薬「柴陥湯」

柴陥湯は、胸の痛みを伴う気管支炎や肋膜炎、胃炎などに適応される漢方薬です。風邪のあと咳だけが残ってしまい、咳き込むと胸が痛い、といった場合にも用いられます。

肝臓を守る風邪薬「小柴胡湯」と気管支炎や胸痛に効く「小陥胸湯」を合わせた方剤で、これらの中間証と見られる症状に対応します。どちらの処方も胸部(肝や肺など)に作用する漢方薬であり、胸の炎症や痛みを和らげ、咳を鎮める作用があります。胸元が苦しく、尿量が少ない、痰が粘るなどの症状が見られれば本剤が適応となる場合があります。

インターフェロンとの併用は「禁忌」とはされていません。ただしベースは小柴胡湯であるので、経過には気をつけて用います。

柴陥湯の生薬について

・柴胡(サイコ)…亜急性期の解熱、解毒、鎮痛、鎮静に使われる代表的な生薬です。寒性で、熱を冷ます性質を持ちます。

・黄芩(オウゴン)…肺と大腸の熱を冷まし消炎・解熱に働く生薬です。

・黄蓮(オウレン)…胃腸の熱を取る働きに優れ、充血や炎症を落ち着かせて鎮痛、止血作用があります。また湿を乾かすため、胃の不快感や嘔吐感を鎮めます。

・栝楼仁(カロニン)…ウリ科トウカラスウリまたはキカラスウリの種子です。肺を潤し化痰、通便、排膿作用を持ちます。

・半夏(ハンゲ)…鎮嘔、鎮静、鎮咳作用を持ち、湿気を取り除きます。

・人参(ニンジン)…滋養強壮の薬として名高く高い疲労回復作用があります。新陳代謝機能の改善、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振に効果があります。

・甘草(カンゾウ)…マメ科カンゾウの根を乾燥させたものです。鎮痛、鎮痙作用があり、炎症を和らげ緊張を緩和させます。

・生姜(ショウキョウ)…食卓でも身体を温める食材としておなじみのショウガです。健胃、発汗、食欲増進作用があり、身体を温めます。

・大棗(タイソウ)…ナツメの果実です。強壮作用、鎮痛作用があり、胃腸の調子を整えて心を落ち着かせます。一緒に配合される他の生薬の作用を調和させる働きもあります。

柴陥湯の効能

中医学では、風邪などの「邪気」は体表から侵入すると考えられています。生命エネルギーである「気」が充実していればこれが体表を覆い病気から守ってくれるのですが、胃腸が弱っているとこの「気」を生産できず、邪の侵入を許してしまいます。咳が出たり胸が痛くなったりするのは、風邪の邪気が体表に留まらず身体の内側に入り込んで体内の気の流れを阻害しているからです。

そこでまずは「気」を充実させることを目指し、胃腸を養う人参、甘草、大棗、生姜を用いています。気がきちんと作られなければ病気と戦うことができないからです。

気の力を養いつつ、すでに出ている症状に対応するのが柴胡や黄芩、黄蓮、栝楼仁、半夏です。柴胡や黄芩は上半身の熱を冷まします。熱は炎症のもとになるものであり、これが緩和されることで痛みが引きます。黄蓮は胃内の水分バランスを調整して膨満感を除き、栝楼仁と半夏は肺を潤して咳を鎮め、痰を出やすくしてくれます。
全ての生薬を絶妙な配合で使うことで、「炎症を冷ます」効力と「潤す」効力をバランスよく発揮します。

柴陥湯の使用法

煎じ薬の成分を濃縮乾燥させた「エキス剤」が主流です。1日量を2、3回に分け、食前または食間に服用します。

副作用などはあるか

甘草を含む処方なので、生薬特有の副作用である「偽アルドステロン症」に注意します。むくみや高血圧などがおこる場合があります。その他、服用して発疹や胃の不快感、下痢などが現れた場合は早めに医師に相談してください。

難治性の皮膚やリンパ腺の腫れを引かせる漢方薬「紫根牡蛎湯」

紫根牡蛎湯は、消耗性疾患に伴う痔の痛み、乳腺の痛み、湿疹や皮膚炎、貧血、倦怠感などに用いる漢方薬です。病気が長引いて体力が落ち、貧血状態になって治す力がないような場合に適応されることがあります。

日本生まれの処方とされ、江戸時代の水国光公の蔵書に本方が記載されています。もともと、なかなか治らない頑固なできものやリンパ腺の腫れに用いられていました。原典には「無名の頑瘡を治す」とあるそうで、これは手足や顔、背中や胸にできて治り難い皮膚の腫れもの、膿腫を指していると考えられています。

江戸時代中期には本剤が「乳がんを治す」とした漢方医もおり、実際臨床でも抗腫瘍効果が確認されています。その効能から、現代でもがん治療の補助として用いられることもあります。

紫根牡蛎湯の生薬について

・紫根(シコン)…ムラサキという植物の根です。清熱、解熱、解熱作用を持ち、発疹や腫れ物、鼻血などを落ち着けます。

・忍冬(ニンドウ)…スイカズラの葉、および茎です。抗菌作用、清熱解毒作用があり、化膿性皮膚疾患、膿腫を治します。湿疹や疥癬にも効果があります。

・升麻(ショウマ)…キンポウゲ科サラシナショウマの根茎です。肺や大腸を涼やかにして解熱・解毒します。また麻疹を治します。

・甘草(カンゾウ)…マメ科カンゾウの根を乾燥させたものです。主な薬効は鎮痛、鎮咳、去痰、解熱、消炎、鎮静、健胃、強壮となり、痛みを鎮めつつ気力体力をつけてくれます。補虚・補気(滋養強壮)の代表的な生薬です。

・黄耆(オウギ)…マメ科キバナオウギまたはその他同属植物の根を乾燥したものです。止汗、利尿、強壮の作用があり、むくみや麻痺、疼痛、排尿困難などに使用します。

・川芎(センキュウ)…セリ科のセンキュウという植物の根が原料です。活血行気の生薬で、血流を改善し、血が滞ることによって起こる頭痛や疼痛を和らげます。また香りによって気うつを晴らします。

・当帰(トウキ)…セリ科のトウキという植物の根です。血を養い血行をよくする働きがあり、冷えや月経痛などに有効です。駆瘀血薬、活血薬として、鎮痛や強壮に役立っています。

・芍薬(シャクヤク)…ボタン科シャクヤクの根です。鎮痛、鎮痙作用があり、筋肉の緊張を和らげて痛みを取ります。

・牡蛎(ボレイ)…イボタガキの殻で、主成分は炭酸カルシウムです。鎮静・安神の薬としてしばしば竜骨と組んで用いられます。

・大黄(ダイオウ)…タデ科の植物の根茎で、寒性を持ち、大腸の熱を取り去り炎症を鎮めます。比較的強い瀉下作用を持ち、便通をつける処方に広く配合されています。

紫根牡蛎湯の効能

紫根牡蛎湯の証の人には目標とする症状の他にも、貧血気味・疲労がとれないといった特徴があるのですが、これは長い病気などで「気」の生産が鈍ったために全身でエネルギー不足が生じ、病邪に対する抵抗力が低下している状態です。同じ理由から血行も悪くなり、皮膚に栄養が行き届かなくなったことで皮膚炎や腫れものが生じてなかなか治りません。

この方剤の主薬は抗菌作用や抗腫瘍作用を持つ紫根です。紫根は寒性の生薬で、清熱、解毒、排膿の作用があります。また当帰も含まれていますが、紫根と当帰の組み合わせは皮膚の状態を良くする漢方「紫雲膏」にも用いられている組み合わせです。血行を良くして皮膚に栄養を与え、抗菌、抗ウイルスの作用によって自身の免疫力だけではなかなか治せなくなっている腫れ物を治してくれます。

忍冬と升麻は熱を取り、大黄は瀉下作用によって紫根の解毒作用を助けます。牡蛎は鹹味を持つため硬く頑固な腫瘤を柔らかくする働きがあり、当帰、川芎、芍薬は血を補い、血行を良くして貧血を改善します。

紫根牡蛎湯の使い方

煎じ薬の成分を濃縮乾燥させた「エキス剤」があります。1日量を3回に分け、食前または食間に服用します。煎じる手間がなく、手軽に服用できます。

副作用などはあるか

甘草が含まれる方剤なので、長期にわたっての処方がされる場合は有効成分「グリチルリチン酸」の多量摂取による「偽アルドステロン症」に注意してください。他にも服用している薬がある場合は、成分の重複に注意します。